大判例

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神戸地方裁判所 昭和54年(ワ)661号 判決 1984年9月20日

原告

成発有限会社

右代表取締役

任善宏

右訴訟代理人

清水賀一

右訴訟復代理人

向田誠宏

被告

株式会社フィォン

右代表取締役

藤本芳秀

右訴訟代理人

下山量平

被告

阪神実業株式会社

右代表取締役

磯崎紘一郎

右訴訟代理人

神垣守

右訴訟復代理人

岡田丈二

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  申立

一  原告

1  被告らは原告に対し、各自金一、八五六万三、三三三円及びこれに対する訴状送達の翌日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告ら

主文同旨

第二  主張

一  請求原因

1  売買契約の締結

原告は、昭和五三年九月二一日、被告阪神実業株式会社(以下「被告阪神実業」という。)の仲介により、被告株式会社ライオン(以下「被告ライォン」という。)から別紙目録(一)、(二)の記載の土地(以下「本件土地」という。)及び右土地上の同目録(三)記載の建物(以下「旧建物」という。)を代金五、五〇〇万円で買受け、同年一〇月二五日に右代金を完済して、その引渡を受けた。

2  請負契約の締結

原告は、同年一二月二四日、訴外株式会社中野組(以下「訴外中野組」という。)に対し、右旧建物を取壊した上、本件土地上に鉄筋コンクリート造三階建店舗兼共同住宅(以下「鉄筋三階建物」という。)の新築工事を代金一億一、八〇〇万円(内基礎工事分の代金一、〇一九万三、七五三円)、基礎工事は捨コン、栗石ラップコンクリートの上面に地中梁をする工法(通称「ベタ基礎工法」という。)による旨の約で請負わせた。

3  瑕疵の存在

ところが、昭和五四年三月初旬から右基礎工事のため、訴外中野組に本件土地を掘削させたところ、地下一メートル付近から大量の木片やビニール片が出てきたので、訴外株式会社東京ソイルリサーチ(以下「訴外東京ソイル」という。)に土質調査を依頼した結果、本件土地のうち、北、西側の地下約一メートルと南、東側の地下約一一メートルが埋土で、しかも、地下1.4メートルから6.5メートルまでは木片、ビニール片が、地下6.5メートルから10.9メートルまでは木片、腐植物が混入している状態で、極めて軟弱な土質であることが判明した。

原告は、旧建物を取壊して、本件土地上に鉄筋三階建物を新築するためにこれを買受けたのであるが、その目的物件である本件土地が右の如く廃棄物の混入した軟弱な土質では、当初予定したベタ基礎工法によつては建築ができず、地中に七ないし一二メートルの杭を打込み、杭の上面に地中梁をする工法(以下「杭打工法」という。)に設計変更をせざるを得なくなつた。

右のとおり、本件土地は、宅地として通常有すべき品質、性能を具備していないので、この点に隠れた瑕疵がある。

4  瑕疵の発見及び通知

原告は、右瑕疵を昭和五四年三月初頃に発見し、その頃直ちに被告阪神実業を介して被告ライオソにこれを通知した。

5  被告らの責任

(一) 被告ライオンの責任

同被告は、本件土地の売主としての瑕疵担保責任に基づき、原告の被つた損害を賠償すべき義務がある。

(二) 被告阪神実業の責任

同被告は、原告から本件売買の仲介を委任された宅建業者として、誠実に媒介業務を遂行すべき善管注意義務があるところ、本件土地が昭和四五年頃、神戸市白川土地区画整理組合(以下「神戸市土地整理組合」という。)により造成された土地で、かつ、原告が鉄筋三階建物の新築用地としてこれを買受けることを知つていたから、本件土地の土質や地中の廃棄物の存否等を調査確認して仲介すべきであるにも拘らず、これを怠つた点に、委任契約不履行に基づく損害賠償の責任がある。

6  原告の損害

原告は、前記瑕疵により基礎工事の工法変更を余儀なくされ、次のとおり合計金一、八五六万三、三三三円の損害を被つた。

(一) 土質調査料 金四五万円

(二) 基礎工事変更設計料 金一〇〇万円

(三) 基礎工事変更による工事費増額分 金一、六〇〇万円

当初の工法による代金一、〇一九万三、七五三円と変更後の工法による代金二、六一九万三、七五三円の差額

(四) 工事遅延にともなう損害金一一一万三、三三三円

本件売買代金五、五〇〇万円と請負代金前渡金一、一八〇万円の合計金六、六八〇万円に対する年五分の割合による遅延四か月分の利息相当損害金

7  よつて、原告は被告ら各自に対し、右損害の合計金一、八五六万三、三三三円及びこれに対する訴状送達の翌日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因1は認めるが、同2、3、6は不知、同4、5は否認ないし争う。

2  本件土地は、昭和四五年頃に神戸市土地整理組合が造成した宅地で、訴外光山正道が買受け、その娘の訴外白川洋子が昭和四六年頃、右土地上に旧建物を建築して、診療所兼居宅として使用し、その後昭和四九年三月頃、訴外株式会社中上商店(以下「訴外中上商店」という。)が本件土地を、訴外中島土地株式会社(以下「訴外中島土地」という。)が旧建物を各買受け、次で昭和五一年四月に被告ライオンが右土地、建物を買受けて、従業員用の社宅兼倉庫として使用してきたもので、その間、地盤沈下ないしこれに基因する地上建物の歪み等もなかつたから、本件土地に宅地としての瑕疵はない。また、原告が瑕疵の通知をしてきたのは、引渡後六か月以上を経過した昭和五四年五月二一日であるから、商法五二六条の要件を欠き、しかも、瑕疵担保責任に基づく損害賠償の範囲は、いわゆる信頼利益に限られるべきであるのに、原告主張の各損害は、いずれも履行利益の損害(または特別損害)を求めるものであるから、この点も失当である。

三  被告ライオンの抗弁

仮に、瑕疵があつたとしても、本件売買契約においては、特に、現状有姿のまま引渡すことが定められており、右約定は瑕疵担保責任を排除する趣旨の特約とみるべきである。

四  抗弁に対する原告の認否

右抗弁は否認する。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1(本件売買契約の締結)の事実は当事者間に争いがない。

二そこで、先づ、本件土地の瑕疵の有無について検討する。

1  <証拠>を総合すると、次の事実が認められ<る。>

(一)  本件土地を含む付近一帯の土地は、神戸市土地整理組合が昭和四五年頃、埋立により造成した宅地であって、その地質、地盤は六甲花崗岩類を基盤岩としており、その上位には凝灰質の泥岩や砂岩を主体とした第三紀層の神戸層群(白川累層)から地層が構成されていること

(二)  そして、本件土地は、右組合により所有権保存の登記がなされた上、その頃、訴外光山に売渡され、翌四六年頃に同訴外人の娘の訴外白川(女医)が右地上に旧建物を建築して、これを診療所兼居宅に使用していたが、昭和四九年三月頃、訴外中上商店が本件土地を、訴外中島土地が旧建物を各買受け、次で昭和五一年四月に被告ライオンが右土地及び建物を買受けたが、その後、昭和五三年九月に原告が本件売買によりこれを買受けるにいたつたこと

(三)  旧建物は、鉄筋コンクリート造の陸屋根平屋建の診療所兼居宅(228.80平方メートル)であつて、建築されて以来、本件売買当時までの約八年間、医院兼住宅として使用されてきたほか、被告ライオンが買受後は、従業員の社宅兼倉庫として使用されていたが、その間、敷地である本件土地が地盤沈下などしたことはなく、地上建物自体に歪み等の支障が生じたことも全くなかつたこと

(四)  原告は、旧建物を取壊して、本件土地上に鉄筋三階建物(分譲マンション)を新築するためにこれを買受けたものであるが、その契約内容は「公簿上の取引で、現状有姿のままとする。」旨が特約されていただけで、右買受目的等に関する約定は何ら取り交わされていなかつたこと

(五)  原告は、本件買受後、同年一一月九日頃に、本件土地の地質調査を訴外株式会社勇建築基礎設計事務所に依頼して、北東隅付近をボーリングしたところ、地表から約1.5メートルの部分は凝灰岩、砂岩等の粘土層の盛土、地下約5.2メートルから6.5メートルまでは砂岩、約6.5メートルから10.15メートルまでは礫岩で、いずれも軟弱であるが、地下1.5メートルから6.5メートルまでの部分は固結性のある砂質泥岩で基礎支持地盤として適当であり、上部構造物の形状、荷重条件等によつても異なるが、地質的には、いわゆる「ベタ基礎工法」によつても建築が可能との調査結果を得たこと

(六)  そこで、原告は、訴外ナツク建築事務所に建築設計を依頼するとともに、同年一二月二四日、訴外中野組に対し、旧建物を取壊して、本件土地上に鉄筋三階建物の新築工事を代金一億一、八〇〇万円(内基礎工事代金一、〇一九万三、七五三円)、基礎工事はベタ基礎工法による旨の約で請負わせ、同訴外組が翌五四年三月初から基礎工事のため本件土地を掘削したところ、地下約一メートル付近からビニール片や木片等が大量に出てきたので、訴外東京ソイルに再度地質調査を依頼した結果、埋土は北西部分が地表から約1.8メートル、南東部分が約10.9メートルの範囲にわたつて埋立がなされており、その埋立材としては、全体的には礫混り砂質粘土が使用されているが、南東部分では、地下約1.3メートルから6.5メートルの範囲に木片やビニール片が、それ以下には木片、腐植物等が混入している状況で、その地耐力は可成り弱いことが判明したこと

(七)  そのため、原告は、当初計画していたベタ基礎工法を杭打工法に設計変更を余儀なくされたが、結局、右工法により昭和五五年三月中旬頃、目的通りの鉄筋三階建物を新築完成させて、目下分譲販売中であること

2 ところで、一般に「宅地」とは、主として建物の敷地に供される土地をいうのであるが(宅地建物取引業法二条一号、不動産登記事務取扱手続準則一一七条、なお、宅地造成等規制法二条一号、新住宅市街地開発法二条六項、都市再開発法二条五号、大都市地域における住宅地等の供給の促進に関する特別措置法二条六号、土地区画整理法二条六項参照)、わが国においては、宅地造成等規制法により擁壁、排水施設の設置、その他宅地造成にともなう災害防止のため必要な措置が規制され(同法九条)、建築基準法により湿潤な土地、出水のおそれの多い土地又はごみその他これに類する物で埋立てられた土地に建物を建築する場合には、盛土、地盤の改良その他衛生上又は安全上必要な措置を講じることが工事施工者らに要求されている(同法一九条)などの規制はあるけれども、取引の対象となる宅地自体の土質、地耐力等に関しては何ら直接これを規制しておらず、造成地にあつても埋立材等についての制限ないし基準は存しないのである(近時、宅地造成需要の増大化にともない、大量、雑多な廃棄物の処理対策上からいわゆるごみ投棄地盤による埋立造成が随所にみられるのがいつわらざる現状である。)。

したがつて、一言で「宅地」といつても、古い固有の宅地から新しい人工の埋立造成宅地まで多種多様で、その土質、地盤の硬度も、極めて強固なものから比較的軟弱なものまで千差万別であり、しかも、当該宅地上にもうけられる建物自体についても、近代的な鉄筋の高層ビルから木造、プレハブ等の平家にいたるまでその種類、規模、構造等は種々様々であるから、これに対応する敷地(宅地)の通常有すべき品質、性能(瑕疵の存否)をこれらの土質、地耐力等の観点のみから一律に画定することは到底困難であるといわざるを得ない。

そうだとすれば、宅地という地目の土地が建物の敷地に供されるものである以上、その地上に建築可能な建物は建築基準法等によつて許容される範囲の建物であれば足り、かつこれを通常用いられる工法により建築することが可能な土地である限り、一般の社会的取引においては、宅地としての性能に欠けるところはないと解するのが相当である。

3 これを本件についてみるに、前示認定のとおり、本件土地にはビニール片等の廃棄物が混入していたため、原告が鉄筋三階建物を建築するにつき、当初予定していたベタ基礎工法を杭打工法に変更を余儀なくされたにせよ、現にこれを新築することができてその買受目的を達しているばかりでなく、本件土地がすでに一〇年近くも以前に埋立により造成された宅地であって、その後原告が本件売買によりこれを取得するまで、取引対象の物件(宅地)として何ら問題なく転々譲渡されてきており、しかも、その間、地上には平家建ではあるが鉄筋コンクリート造の旧建物(診療所兼居宅)が現存していたのであるから、これらの経緯、事実関係等から考量すれば、埋立当時における造成工事自体の瑕疵が問題となるかは格別、少くとも、取引上の宅地としては、本件土地に瑕疵はなかつたものとみるのが社会通念上公平(担保責任の衡平な分担)というべきである。

もつとも、本件売買取引の際、売主側において、その目的物件である本件土地がベタ基礎工法によつて鉄筋三階建物の新築が可能である旨を特に保証ないし約しておれば、その責任を負わせることもできるが、この点、被告らがかかる特段の保証等をしたとみられる証拠はない。のみならず、本件の如き鉄筋三階建物を建築する場合、果して、ベタ基礎工法によるのが通常であつて、杭打工法は予想もできない程、異例な工法といえるか否かの点についても、これを裏付ける確証はないのである(基礎工法は、単に土質、地盤の状態だけでなく、建物の構造、荷重条件等によつても異なるから、その採用される工法の種類も広範囲にわたり、結局のところ、いずれの工法によるかは、建築主自身の主観的な選択、裁量により決すべき事柄というほかない。)。

三以上の次第で、本件土地に瑕疵があることを前提とする原告の本訴各請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がないからこれを棄却することとし、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(永岡正毅 岡原剛 大西嘉彦)

目録<省略>

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